腰が痛い。それでも、明日も出勤しなければならない。もう辞めたほうがいいのだろうか。そう迷っているなら、先に知っておいてほしいことがあります。
辞める前に、「休む」という選択があります。
会社の健康保険に入っていれば、傷病手当金という制度が使えます。ふだんの収入のおよそ3分の2を受け取りながら、通算1年6か月まで休めます。辞めてしまうと、この選択肢は使えません。
私は67歳、介護の現場で7年目です。職場では、腰痛がひどくなって辞めていった人も、診断書をもらって数か月休んだ人も見てきました。
続けるべきだとも、辞めるべきだとも思いません。ただ、それを決めるのは、休んでからでも遅くありません。 この記事では、その中身を書きます。

辞める前に、「休む」という選択があります
腰が痛くて介護の仕事ができなくなると、焦ります。情けなくもなります。この先どうなるんだろうと不安になります。私自身、30代のときにその気持ちを味わいました。
でも、そこで無理して出勤するのは、できるだけ避けてほしいと思います。無理をして悪化させると、選べる道がもっと少なくなってしまうからです。
休むことは、あきらめることではありません。

休むと決めたとき、職場にどう伝えるか
順番は3つです。
1. まず整形外科へ行く
休むかどうかを決める前に、原因をはっきりさせてください。骨や神経に問題があるのか、筋肉の疲労なのか。ここで話がまったく変わります。
2. 診断書をもらう
休職や傷病手当金を使うなら、必要になります。まだ迷っている段階でも、受診したときに医師へ「仕事を休んだほうがいいか」を相談しておくと、後の動きが早くなります。
3. 職場には、事実だけを伝える

言いにくいのはわかります。ただ、伝えるのは「医師にこう言われた」「いつからいつまで休みたい」という事実だけで足りると思います。謝る必要も、詳しく説明する必要もありません。
なお、傷病手当金の申請書には勤務先が記入する欄があります(後で書きます)。休むと決めたら、いずれ職場を通すことになります。黙って進められる制度ではありません。
私の職場で、実際に休んだ人たち

腰が痛いのは、あなたが弱いからではありません。
厚生労働省の調べでは、令和6年に休業4日以上となった腰痛(負傷に起因するもの)は、全国で6,291件でした。そのうち保健衛生業(社会福祉施設や医療機関)が2,251件と、全業種のなかで最も多くなっています。腰痛の3件に1件以上が、介護や医療の現場で起きている計算です。
(出典:厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査」令和6年・第1表)
数字のうえでも、介護の現場は突出しています。私の職場でも、腰痛はほとんど職業病のようになっています。みんな抱えたまま働いている、というのが実際のところです。
そのうえで、こういうことが起きています。
- パート職員の中に、腰痛がひどくなって退職した方がいます
- 診断書をもらって、数か月休んだ職員も何人かいます
- 労災を申請したという話は、私の周りでは聞いていません
戻ってきたときは、しばらく軽い仕事から始めていました。とはいえ1週間もすれば、休む前と同じ仕事をしています。休んだせいで居場所がなくなる、ということは私の職場ではありません。
労災ではなく、傷病手当金だけを使って休むという方法です。実はこの方法を意外と知らない方が多い、というのが現場にいる私の実感です。
傷病手当金 ― 休んでいる間の収入をどうするか
会社の健康保険に入っている方が、業務外の病気やケガで働けなくなったときに使える制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 業務外の病気やケガで、仕事に就けないこと |
| 待期(待つ期間) | 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んだこと |
| 支給額 | 1日あたり、標準報酬日額のおよそ3分の2 |
| 支給期間 | 支給を開始した日から通算1年6か月 |
(出典:全国健康保険協会「傷病手当金」/2026年8月時点の内容です)
いくら受け取れるのか

ざっくり言えば、ふだんの月給の3分の2です。
計算はこうなります。
月給の平均 ÷ 30 = 1日あたりの基準額
基準額 × 3分の2 = 受け取れる金額(1日あたり)
ご自分の月給に近い行を見てください。だいたいその金額です。
| 月給(手当込み・税引き前) | 1日あたり | 30日休んだ場合 |
|---|---|---|
| 10万円 | 2,220円 | 約6万7千円 |
| 12万円 | 2,667円 | 約8万円 |
| 14万円 | 3,113円 | 約9万3千円 |
| 16万円 | 3,553円 | 約10万7千円 |
| 17万円 | 3,780円 | 約11万3千円 |
| 18万円 | 4,000円 | 約12万円 |
| 20万円 | 4,447円 | 約13万3千円 |
| 22万円 | 4,887円 | 約14万7千円 |
| 24万円 | 5,333円 | 約16万円 |
たとえば月給16万円のパートの方が1か月休んだら、10万円ちょっとが入る、ということになります。
(基準になるのは直近12か月の平均です。正確には「標準報酬月額」という区分で決まるため、月給とは多少ずれます。正確な金額を知りたいときは、勤務先に聞くのが一番早いです)
いつから対象になるのか
連続して3日間休んだあと、4日目からです。この3日間を「待期」と呼びます。
ここは間違えやすいところですが、待期の3日間には土日・祝日も、有給休暇も含まれます。給料が出たかどうかは関係ありません。金曜に痛めて土日を挟んだなら、その3日で待期は成立します。
なお、仕事中に痛めたことがはっきりしている場合は、労災のほうが対象になります。逆に言えば、労災にならない腰痛なら、傷病手当金が使えるということです。
介護の腰痛は、毎日の積み重ねで少しずつ悪くなることが多く、「いつ痛めたか」がはっきりしません。労災は難しくても、こちらは使える。そういう方のほうが多いと思います。
申請は誰に頼むのか

申請書は、3人が別々の欄を書きます。
| 書く人 | 何を書くか |
|---|---|
| 自分 | 休んだ期間、振込先など |
| 勤務先 | 給与を払っていないことの証明 |
| 主治医 | 働けない状態だったという意見 |
つまり、自分ひとりでは完成しません。病院と職場の両方に頼むことになります。
協会けんぽは、1か月単位で、給与の締切日ごとに申請することをすすめています。勤務先の証明が毎回必要になるためです。長く休むときは、まとめて出すのではなく、月ごとに出していく形になります。
有給と傷病手当金、どちらを先に使うか
給料が出ている間は、傷病手当金は支給されません。(傷病手当金より少ない額しか出ていない場合は、その差額が支給されます)
つまり、有給を使った日は傷病手当金の対象外です。両方を同時には受け取れません。
有給が多く残っているなら、まず有給で休んで様子を見る。それでも足りないときに傷病手当金へ移る、という順番が考えやすいと思います。ただし、有給の日数も、給与の締め日も職場によって違います。どちらを先に使うかは、休むと決めた時点で勤務先に相談してください。
年金をもらいながら働いている方へ
ここは順番を間違えないでください。
働いているうちに休めば、傷病手当金は受け取れます。 年金と、両方もらえます。
ところが、先に辞めてしまうと、年金が優先されて傷病手当金は止まります(年金が少ない場合は、差額が出ることもあります)。
辞めてから休むのではなく、辞める前に休む。 同じ「休む」でも、手元に入るお金がまったく変わります。
(出典:全国健康保険協会「傷病手当金」よくあるご質問)
こんな腰痛なら、我慢せず受診してください

次のような状態なら、迷わず受診してください。
- 夜、寝ていても痛む
- 足にしびれがある
- 痛み止めが効かなくなってきた
- 靴下を履く、顔を洗うなど、前かがみになる動作でも痛む
こういう場合、体の使い方や筋トレでどうにかできる話ではありません。原因によっては、鍛えることがかえって悪いこともあります。まず受診してください、というのはそういう意味です。
それでも続けられないと思ったら

休んでも痛みが引かない。戻れる気がしない。そう思ったときに辞めるのは、逃げではありません。
私の職場でも、腰痛がひどくなって辞めていったパートさんがいます。誰も責めていません。体だけは替えがきかないからです。
ただ、同じ介護の仕事でも、腰への負担は職場によってずいぶん違います。辞めるのは「介護」ではなく、「その職場」のほうかもしれません。 職場を変えて楽になった人もいます(→介護パートが続かない4つの理由)。
よくある質問
Q. 腰痛は労災になりますか。
仕事中に痛めたことがはっきりしていれば、労災の対象になります。ただ、私の周りで労災を申請したという話は聞きません。腰痛は「いつ痛めたか」が特定しにくいからだと思います。業務外の扱いになるなら、傷病手当金のほうです。
Q. ドクターストップと言われたら、辞めるしかないですか。
そうではありません。医師が「働けない」と判断したのなら、それは傷病手当金の条件そのものです。まず休んで、体と気持ちが落ち着いてから、続けるか辞めるかを決めればいいと思います。
Q. 診断書は取っておいたほうがいいですか。
休職や傷病手当金を使うなら必要になります。迷っている段階でも、受診のときに医師へ相談しておいてください。
Q. 痛くて辞めたい。私が弱いのでしょうか。
そうは思いません。体だけは替えがきかないからです。無理を続けて動けなくなるより、休むほうがずっといい判断だと思います。
Q. 腰痛があると、次の職場は見つかりませんか。
今は人手不足の時代です。本人に働く意欲さえあれば、腰のことを正直に話しても、それがマイナスになることはないと思います。私自身、60歳を過ぎてから介護の世界に入り、いくつかの職場を経験してきました。隠して入るより、話しておいたほうが、結局は自分が働きやすくなります。
まとめ
腰痛で退職を考えたら、この順番で考えてみてください。
- 整形外科で原因をはっきりさせる
- 担当や働き方を変えられないか確かめる
- 辞める前に「休む」(傷病手当金)を検討する
- そのうえで、続けるか辞めるかを決める
そのうえで、今日できることは3つあります。
- 整形外科を予約する。原因がはっきりしないと、休むかどうかも決められません
- 給与の締め日を確認する。傷病手当金は、給与の締め日ごとに1か月分ずつ申請していきます。自分の職場の締め日がわかれば、いつ申請して、いつ振り込まれるのか、見当がつきます
- 申請書に目を通しておく。協会けんぽのホームページにあります。全4枚のうち2枚は勤務先と主治医に書いてもらうので、先に知っておくと頼みやすくなります
大事なのは、続けることでも辞めることでもなく、体を壊さずにすむ道を選ぶことです。
体が一番の資本です。健康第一。それを基準に考えてみてはいかがでしょうか。
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